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東京地方裁判所 平成9年(ワ)20012号 判決 1998年1月14日

《住所略》

原告

松下保久

東京都渋谷区代々木2丁目2番2号

被告

東日本旅客鉄道株式会社

右代表者代表取締役

松田昌士

右訴訟代理人弁護士

久保利英明

中村直人

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

平成9年6月27日に開催された被告の第10回定時株主総会における、監査役の報酬額を月額700万円以内から月額900万円以内に改定する旨の決議を取り消す。

第二  事案の概要

一  原告は被告の株主である。被告は、平成9年6月27日、東京都千代田区紀尾井町4番1号所在のホテルニューオータニ本館において第10回定時株主総会を開催し(「本件株主総会」という。)、監査役の報酬額を月額700万円以内から月額900万円以内に改定する旨の議案(以下、「本件議案」という。)を可決する旨の決議をした。(以上の事実は当事者間に争いがない。)

本件は、本件議案の決議が議案として付議せずに行われたものであり決議の方法に瑕疵があるとして、原告が本件議案の決議の取消しを求めた事案である。

二  争点は、本件株主総会において、本件議案が議案として上程され付議されたか否かという点である。

第三  当裁判所の判断

一  成立に争いのない乙一号証(本件株主総会議事録)によれば、本件議案は、本件株主総会において第6号議案として上程され、審議の対象とされたことが認められる。

二  原告は、同議事録には本件議案を上程した旨の記載がなく、本件議案は本件株主総会に上程されていないのであり、また、同議事録の文言をもって上程された旨の記載と解釈するとしても、同議事録には本件議案の内容につき説明がなされた旨の記載がなく、本件議案の内容の説明がなされておらず、議案として上程・付議されたことにはならないと主張する。

しかしながら、本件株主総会議事録には、議長が本件議案を他の議案とともに一括して上程し審議することの可否を諮り、出席株主の過半数の賛成を得て了解された旨、議長が本件議案についての発言を受けると述べた旨、議長が本件議案につき他の議案とともに審議を尽くしたので審議を終了し順次採決をすることを諮り、出席株主の過半数の賛成を得て了解された旨、及び本件議案が原案どおり承認可決された旨の記載があり、これらの記載内容は本件議案が本件株主総会に上程され審議された旨の記載であると解するのが相当である。

また、同議事録には本件議案の説明をした旨の文言の記載がないものの、議事録に記載がないからといって直ちに議案の説明がなされなかったと認めるべきことにはならない。前記のとおり議事録に記載された審議の状況及び本件株主総会の招集通知に本件議案の説明内容が記載されていることに照らすと、本件議案についても説明がなされたと考えるのが自然である。さらに、本件株主総会の録音のうち本件議案の上程に関する部分の反訳書である乙三号証の一(作成名義人各下の印影が同人の印章であること(乙三号証の二)から、同印影が同人の意思に基づくものと推定され、真正な成立が推定される。)に、本件議案の説明がなされた旨の記載があり、その信用性を疑うべき特段の事情のない以上、同書証により本件議案の説明がなされたことを認めるのが相当である。

三  以上によれば、本件請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木芳胤)

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